世の中に出回っている著作物を見ると、左のような表記を見ることがよくあります。著作権を表す、俗に「マルC」と呼ばれる記号です。私たちにとてもなじみ深いこの記号ですが、どんな時に、どんな役割を持つものか、正しく理解している人は少ないのではないでしょうか。
ここでは、知っているようで意外に知らないマルCの実像に迫ってみたいと思います。
日本の著作権法では、著作物を作った時点で自動的に著作権が発生します。特に何の手続きをしていなくても、著作者の権利は保護されるのです。現在では世界の殆どの国が同様の制度になっています。
国によっては、公的機関や公証人などによる登録を経て初めて著作権が認められるという制度を採っている場合もあります。このような制度を、著作権発生のための何らかの方式があるということから「方式主義」といいます。カンボジア、サウジアラビアなどごく少数の国が、この制度をとっています。それとは逆に、日本のように自動的に著作権が発生する制度を「無方式主義」といいます。
現在、著作権に関する国際条約として主要なものに、「ベルヌ条約」「万国著作権条約」の2つがあります。前者は無方式主義、後者は方式主義を前提とした制度になっていて、日本は両方に加盟しています。両方に加盟している場合は、ベルヌ条約の規定が優先されることになっています。
当然両者の間には、調整すべき矛盾が存在しました。それは、「無方式主義の著作物を、方式主義の国に持ち込む場合、どのように保護されるのか」という問題です。
日本でマルCの意味が理解されていない大きな理由の一つは、著作権法にはマルCについて何も書いていないということです。それもそのはず、マルC記号は、この方式主義と無方式主義の違いによる問題を解決するためのもので、その役割などについての規定は、万国著作権条約に書いてあるのです。
万国著作権条約 第三条
締約国は、自国の法令に基づき著作権の保護の条件として納入、登録、表示、公証人による証明、手数料の支払又は自国における製造若しくは発行等の方式に従うことを要求する場合には、この条約に基づいて保護を受ける著作物であつて自国外で最初に発行されかつその著作者が自国民でないものにつき、著作者その他の著作権者の許諾を得て発行された当該著作物のすべての複製物がその最初の発行の時から著作権者の名及び最初の発行の年とともにCの記号を表示している限り、その要求が満たされたものと認める。Cの記号、著作権者の名及び最初の発行の年は、著作権の保護が要求されていることが明らかになるような適当な方法でかつ適当な場所に掲げなければならない。
これを一度読んで全部理解できる人はいないので(笑)、少しわかりやすい言葉に直しましょう。
方式主義を採っている万国著作権条約の加盟国では、著作権の保護に登録、公証人による証明などの条件をつけています。しかし外国で発行した外国人の著作物は、わざわざ世界各国で登録手続きをとるなどということはしていませんから、このような国の法律で保護を受けることはできません。そこでこの条約では、外国の著作物であっても、マルC、著作権者、最初の発行年を書いて発行すれば、方式主義の国が定めている著作権保護の条件を満たしたものとみなす、ということを定めているのです。
「最初の発行の時から」という断り書きがあるのにも理由があります。こう書いておかないと、無方式主義の国でマルCを記載して発行した著作物でも、方式主義の国でマルCなしで無断発行できてしまうからです。「最初に」マルCを書いておけば、後から何をやろうが、その著作物は保護されるのです。
10年以上前までは、この問題にもかなり気を配る必要がありました。それは、アメリカが長年方式主義を採ってきたからです。そのアメリカが1989年にベルヌ条約に加盟、無方式主義に転換したこともあって、現在はマルC記載の有無が重大な問題をもたらすような事態はほとんどなくなっているようです。
条約の条文に書いてある通り、国際的な取り決めにもとづく著作権表記は、マルC、著作権者、発行年でワンセットになります。著作権者名は日本語で書いても良いですが、年度は西暦で書くのが普通です。アメリカの映画の場合、ローマ数字で書いてある場合も多いようです。ちなみにローマ数字で2000は「MM」となります。
→コラム1「なぜ映画はローマ数字?」
マルCの記号は欧文フォントでは定義されているのですが、日本語のJIS文字コード体系では定義されていません。使っているパソコン、ワープロやタイプライターでマルCの文字が用意されていないなど、マルCを表示することが技術的に難しい場合は、(C)と書いても良い慣例になっています。 記号と2つの情報の順番については、特に規定はありません。マルC・著作権者・年度またはマルC・年度・著作権者になっているものが多いようです。
実際の著作権表記を見ると、これ以外の情報が付加されているケースがあります。具体例を挙げると、下記のようなものです。これらの場合も、必須項目が充足されていれば有効です。
・著作権表記の前後に All Rights Reserved. と書いてある→コラム2「無断引用・転載を禁ず」
・著作権者の前に by をつける
・マルCの前に「Copyright」と書いてある
・著作権表記の後に「不許複製」「無断転載を禁ず」などと書いてある
題名に掲げてしまいましたが、答えは単純です。日本国内におけるマルCの法的意味は、何もありません。
日本をはじめとする無方式主義の国では、著作権保護対象の著作物はマルCが書いてなくても保護されます。逆に狩野探幽や井原西鶴の作品は著作権が消滅しているので、マルCを書いても保護されることはありません。
私たちの持っている本やCD、ゲームソフトなどにはほとんどマルC表記があります。これは上に掲げた条約が示すとおり、方式主義の国に持ち込まれるときのための備えとして、著作権者が自ら記載するものなのです。
最近ネット上で、「マルCは著作権者の許諾を得た印」であるかのようなことを書いている人がいますが、これはデマです。著作権について訴訟を起こしたマンガ家の小林よしのり氏が「新ゴーマニズム宣言」の中で、そのような趣旨のことを書いているのですが、氏を無批判に信奉している人たちがそれを事実であると思い込み、結果としてデマを流しているようです。
これまで書いてきたように、万国著作権条約で定める著作権表示はマルC・著作権者・発行年度でワンセットなのですが、実際にはマルCと著作権者名だけを書いた表記を見ることが頻繁にあります。
国際条約上の有効性はともかくとして、単に「(C)□□□□」と書いてあった場合は、「これは□□□□が権利を持つ著作物です。無断で複製することは法律で禁じられています」という製作者からのメッセージとして受けとめておくと良いでしょう。仮にこの表記が条約に照らして無効だとしても、著作権自体が無効になるわけではないので、無視はできません。
ふつう他者の著作物を利用する場合は、それが許諾にもとづかない引用などか、許諾にもとづく利用かを問わず、出典を明示する規定になっています(著作権法48条)。この「(C)□□□□」表記は、出典明示の代わりに使われる場合と、出典明示に添えて使われる場合とが多いようです。
事例を見たところでは、出典を明示せずに「(C)□□□□」とだけ記載するのは、だいたい以下のような場合が多いようです。・利用される、または利用する著作物がビジュアル性の強いものであり、文字で出典を記載することが視覚効果の妨げになる可能性が高い場合また出典を明示して、さらに「(C)□□□□」と記載するのは、次のようなものであることが多いようです。
・写真や絵画作品のように、題名では出典を特定しにくい、または題名より著作者のほうが重視されることの多い性質の著作物である場合・著作者と著作権者が異なるとき、著作者/著作権者/利用者のいずれかにとって、そのことを明記しておくことが必要、または好都合である理由が存在する場合いずれにしても、無方式主義を採っている日本においては、重要なのはマルCに何と書いてあるかではなく、実際に誰の著作物であるか、ということです。もちろんマルCをつけてわざわざ虚偽を書くことは稀でしょうから、参考にすることはできます。そのくらいの位置づけと思っておくのが賢明です。
・新聞や雑誌のように二次利用の可能性が高く、二次利用の際のトラブル防止の観点から、他者の著作物が含まれることを明記しておくことが重要とされる場合
・映像作品のように「著者」を一概に特定できない、または非常に多くの著者が存在する性質の著作物の場合
ネットワークを利用する者にとって、著作権は避けて通れない問題です。しかし、インターネット上のコンテンツに直接関わる仕事をしているのでなければ、マルCのことはあまり意識しなくて良いと思います。
たとえば、あなたが作ったホームページはあなたの著作物です。日本をはじめ世界の殆どの国では、あなたが作ったという事実さえあれば、それだけで著作物として保護されます。もし自分のホームページを、方式主義であるサウジアラビアやラオスの人にも見てもらって、そこでも著作権の保護を受けたいと思うのであれば、2に書いた方式でマルCを記載しておくと良いでしょう。
また、BBSにあなたが書いた文章も、あなたの著作物です。しかしBBSの発言に逐一マルCを書く人はいないでしょう(笑)。もしこの文章について、方式主義を採る世界のごく少数の国でも保護を受けたいと思った場合は、本当にBBSの書き込みにマルCを添えて書くか、自分のホームページなど別の媒体に転載してマルCを記載すれば大丈夫です。
インターネット上で日本語文字セットを使っている場合、マルCを表示させることはできません。HTMLで著作権表示をしたいときは © と書きますが、これは欧文ではマルC表記、日本では(C)になるようです。
また私自身もそうですが、ネット上では変名を使っている人が多くいます。本名を明かすことに支障のない場合を除けば、マルC・変名・年度を記載するしかありません。しかし、いわゆる有名人を除けば、その変名と実際の人物との関係は、社会的には不明確であると言えます。このような場合は何らかの形で、その変名が自分であることを証明できる手段を確保しておくと良いでしょう。
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